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仕事の社会的価値は高いのに、なぜ「地味で誇れない会社」になってしまうのか── 製造業・インフラ企業の採用が難しい本当の理由
「社会に不可欠な仕事なのに、なぜか誇れない」
製造業、清掃、設備、衛生管理、インフラ。
これらの仕事がなければ、私たちの生活は一日たりとも成り立ちません。
それにもかかわらず、多くの企業から、こんな声を耳にします。
- 求人を出しても、なかなか応募が集まらない
- 若い世代に「働きたい会社」として選ばれにくい
- 社員が自分の仕事を誇らしそうに語らない
- 面接で会社の魅力をうまく説明できない
給与や福利厚生、働き方の問題ももちろんあります。
ただ、それだけでは説明しきれない違和感を感じている方も多いのではないでしょうか。
実はこの背景には、多くの製造業・インフラ系企業に共通する、
ある構造的な課題があります。
それが、仕事の社会的価値は非常に高いにも関わらず、
「地味」「誇れない仕事」というイメージが、
社内にも社外にも定着してしまっていることです。
「価値が低い仕事」なのではない。「価値を実感できていない」だけ
まず、はっきりさせておきたいことがあります。
採用に悩んでいる製造業・インフラ企業の多くは、
決して価値の低い仕事をしているわけではありません。
むしろ、社会にとって欠かせない仕事を担っています。
- 人々の安全や健康を守っている
- 社会インフラを陰で支えている
- 地域や顧客から長年信頼され続けている
それなのに、なぜ「誇れない仕事」になってしまうのか。
その理由は、意外なほどシンプルです。
自分たち自身が、
「この仕事が誰に、どう役立っているのか」を
実感できていないから。
価値は、確かに存在しています。
ただし、それが
- 言葉になっていない
- 感情として腹に落ちていない
この状態では、社員が誇りを持つのは難しく、
外部に魅力として伝えることもできません。
結果として、
- 社員は自虐的になる
- 採用では「地味な会社」に見られる
- 応募が集まらない
という悪循環が生まれてしまいます。
事例:創業125年の老舗企業が抱えていた“違和感”
ここで、ある企業の話を紹介します。
創業125年、社員600名を超える老舗企業。
清掃・設備・衛生管理といった、社会に不可欠な事業を手がけてきました。
長年、誠実に仕事を積み重ね、顧客からの信頼も厚い。
それでも、代表の胸には、消えない違和感がありました。
- 社員がどこか下を向いている
- 業界全体に閉塞感がある
- 「清掃作業員」という言葉に、ネガティブな印象がつきまとう
- 若い世代に「ここで働きたい」と思ってもらいにくい
仕事の中身には自信がある。
それなのに、会社の空気はワクワクしていない。
代表は、こう感じていました。
「会社を、もっとワクワクする場所にしたい。
社員が、自分の仕事を誇りに思える会社にしたい」この想いは、製造業・インフラ系企業の経営者であれば、
きっと一度は感じたことがあるのではないでしょうか。
なぜ「地味な仕事」というレッテルが外れないのか
この企業が抱えていた課題は、決して特殊なものではありません。
多くの企業に共通する、3つの構造があります。
1. 仕事の価値が「当たり前」になりすぎている
毎日、問題なく回っている現場。
事故が起きないこと、きれいな状態が保たれていること。
それらはすべて、誰かの仕事の成果です。
しかし、「問題が起きない」という性質上、その価値は見えにくい。
結果として、
- 自分たちの仕事の価値を語る言葉がない
- 作業内容の説明で終わってしまう
という状態に陥りがちです。
2. 外部からの評価を知る機会がほとんどない
顧客や協力会社は、その企業の価値をよく理解しています。
- 「いてくれないと困る」
- 「安心して任せられる」
そんな声が、実際には多く存在します。
しかし、それらの声は
- 現場止まり
- 一部の担当者止まり
になり、社員全体に共有されることはほとんどありません。社員は、自分たちが
どれほど人の役に立ち、喜ばれているのかを知らないまま、
日々の業務を続けてしまいます。
3. 「地味」という自己認識を、内側から受け入れてしまっている
最も根深いのが、この問題です。
- 「うちは地味な業界だから」
- 「派手さはない仕事だから」
こうした言葉が、知らず知らずのうちに
社内の共通認識になっていきます。
誇りを持てていないものは、外から見ても魅力として伝わりにくいことがあります。
そしてこの自己認識が、採用やブランディングの伸びしろを狭めてしまうケースも少なくありません。
変化のきっかけは「外に見せる前に、内側を見つめ直す」こと
この企業が行ったのは、
いきなりロゴやWebサイトを変えることではありませんでした。
まず取り組んだのは、
自分たちの仕事が、
社会の中でどんな価値を生んでいるのかを
“実感し直す”こと。
そのために、
- 顧客
- 協力会社
- 関係者
といった、第三者の視点を丁寧に集めました。そこから見えてきたのは、
社内では当たり前すぎて見えなくなっていた価値でした。
- 社会を支える存在であること
- 安心を提供し続けていること
- 人と人の関係性を大切にしてきた歴史
それらが言葉になったとき、
社内の空気が少しずつ変わり始めます。
社員の表情が変わった瞬間
社内ワークショップの初期段階では、
- 下を向いている
- 発言が少ない
- 「やらされている感」がある
そんな様子が見られました。
しかし、
- 外部からの声
- 自分たちの仕事の意味
- 会社が大切にしてきた価値
が少しずつ共有されるにつれ、変化が起きます。
- 前を向いて話すようになる
- 自分の言葉で意見を言い始める
「自分たちも会社の一員だ」という意識が芽生える
代表は、こう語っています。「自分たちの会社が、
何をしていて、どこへ向かっているのかが
わかりかけた瞬間から、
みんなが発言し始めました」
「地味な仕事」は、「誇れる仕事」に変えられる
この事例が教えてくれるのは、とてもシンプルな事実です。
仕事のイメージは、
仕事そのものではなく、
“どう理解されているか”で決まる。
社会的価値の高い仕事ほど、
正しく言語化し、実感し直すことが重要です。
- 社員が誇りを持てる
- 自分の仕事を語れる
- 「この会社で働いている」と言いたくなる
その状態が整って、初めて
採用やブランディングは機能し始めます。
採用が難しいと感じたとき、最初に見直すべきこと
もし今、
- 製造業で採用に苦戦している
- 「業界的に仕方ない」と感じている
- 社員が会社を誇れていない気がする
そんな違和感があるなら、
見直すべきは求人媒体や広告手法ではありません。
自社の仕事の価値を、
自分たち自身が実感できているか。そこから始めることが、
採用を変える最初の一歩になります。
この違和感に向き合い、
「地味な仕事」を「誇れる仕事」へと変えていった企業があります。
そのプロセスと変化を、以下の事例でご紹介しています。
▶︎ 大代ゼンテックス様 ブランディング事例はこちら
【執筆】豊福 竜大(Tatsuhiro Toyofuku)/執行役員
独自のブランディング手法を確立し、外部の声をもとに価値を再構築。
理念をアートとして可視化することで、従業員満足度の向上と、離職率低下の支援を行う。
自らがcrackの思想を体現し、その魅力を語ることで共感を生む。
理念を語ることで発注が生まれ、経営者が涙する現場を幾度も見届けてきた。
「自社を自慢できない社員をゼロにする」――その精神を胸に、
チームと現場をつなぐディレクターとして、企業と人の“誇りの接続”を描き続けている。
仲間からは“BIG BABY”と呼ばれ、その柔らかさと情熱が、組織に新しい風をもたらす。