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理念や歴史はあるのに、なぜ社員の行動や会話につながらないのか── 中小企業のブランディングの難しさは、ここにある
「理念はある。でも、現場では使われていない」
多くの中小企業・老舗企業で、こんな声を耳にします。
- 理念はちゃんとある
- 創業の想いや歴史も語れる
- 社長は大切にしている
それなのに、
- 現場では理念の話が出てこない
- 日常の判断基準になっていない
- 社員の行動が理念と結びついていない
- 「それ、理念的にどうなの?」という会話が生まれない
理念は存在しているのに、
組織の中で“生きていない”。これは決して珍しい話ではありません。
むしろ、歴史のある企業ほど起きやすい課題です。
理念が浸透しない理由は「伝えていないから」ではない
多くの企業では、
理念が浸透しない理由をこう捉えがちです。
- まだ十分に説明できていない
- 研修の回数が足りない
- 繰り返し伝えきれていない
もちろん、それらも一因ではあります。
しかし、本質的な原因は別のところにあります。
理念が「理解するもの」になっていて、
「実感するもの」になっていないこと。
理念が文章としては分かる。
意味もなんとなく理解できる。
でも、
- 自分の仕事とどうつながるのか
- 今日の判断にどう影響するのか
- なぜ自分がここで働いているのか
そこまで腹落ちしていない。この状態では、理念は
“正しいことが書いてある文章”で止まってしまいます。
事例:125年の歴史が「言葉のまま」止まっていた企業
ある創業125年の老舗企業も、
まさにこの課題を抱えていました。
長い歴史があり、
創業の想いも、企業理念も、確かに存在している。
けれど、
- 理念は「読むもの」
- 歴史は「知識としての年表」
になっており、
社員一人ひとりの仕事や感情とは、
少し距離のある存在でした。
代表自身も、こう感じていました。
「理念はあるけれど、
本当に“腹に落ちている”かと言われると、
そうではなかったかもしれません」この違和感は、
多くの経営者が心のどこかで抱えているものです。
なぜ理念は「腹落ち」しないのか
理念や歴史が行動につながらない企業には、
共通する構造があります。
1. 理念が“抽象度の高い言葉”のまま止まっている
理念は、どうしても抽象的になりがちです。
- 「社会に貢献する」
- 「人を大切にする」
- 「挑戦し続ける」
どれも正しい。
でも、そのままでは、
- 自分の仕事と結びつかない
- 行動に翻訳できない
結果として、
理念は「掲げてあるだけ」の存在になります。
2. 歴史が「語り部のもの」になっている
創業の話や過去の苦労は、
多くの場合、社長や一部の幹部が語ります。
しかし社員にとっては、
- 自分が入社する前の話
- 聞いたことはあるけど、実感はない話
になりがちです。
歴史が「自分ごと」にならなければ、
今の仕事と結びつくことはありません。
3. 理念を“感じる体験”がない
理念は、頭で理解するだけでは足りません。
- 見る
- 聞く
- 語る
- 触れる
そうした体験を通して、
初めて感情と結びつきます。
体験がなければ、理念は
知識のまま、記憶の奥にしまわれてしまうのです。
変化のきっかけは「理念を体感できる形」にすること
この企業が行ったのは、
理念を“説明し直す”ことではありませんでした。
取り組んだのは、
理念や歴史を、
社員が「感じられる形」に変えること。
そのプロセスでは、
- 顧客
- 協力会社
- 関係者
といった第三者の声を通して、
「この会社が何を大切にしてきたのか」を
あらためて掘り起こしていきました。
外部の視点を通すことで、
- 理念が独りよがりではないこと
- 実際に社会の中で機能してきた価値であること
が、少しずつ明らかになっていきます。
理念が“腹に落ちた”瞬間に起きた変化
印象的だったのは、
理念が「理解」から「実感」に変わった瞬間です。
それまで、
- 言葉としては知っていた理念
- なんとなく分かっていた歴史
が、
- 絵や象徴
- 物語
- 他者の評価
として目の前に現れたとき、
社員の反応が変わりました。
代表は、こう語っています。
「これまで言葉だけだった理念が、
絵や形として目の前に現れたことで、
“自分たちの会社って、こういう意味を持っていたんだ”と一気に腹に落ちた感じがしました」
その瞬間から、
- 会話の中に理念の話が出る
- 判断の軸として使われる
- 「自分たちはどうありたいか」を語り始める
といった変化が、少しずつ生まれていきました。
理念が「行動につながる会社」の共通点
この事例から見えてくるのは、
理念が機能している会社の共通点です。
- 理念が“見える”形になっている
- 日常の中で自然に触れられる
- 社員自身の言葉で語られている
理念は、覚えさせるものではありません。
思い出され、使われるものです。
ブランディングが機能しない本当の理由
中小企業のブランディングが
「ロゴやWebを変えただけで終わってしまう」理由も、ここにあります。
内側で理念が生きていない状態では、
- どんなデザインをしても
- どんな言葉を外に出しても
本当の意味では伝わりません。
ブランディングとは、理念と日常がつながっている状態そのものなのです。
理念を「掲げる会社」から「使う会社」へ
もし今、
- 理念が形骸化していると感じる
- 社員の行動がバラバラに見える
- 歴史が十分に活かされていない
そんな違和感があるなら、
問い直すべきはここです。
理念は、社員にとって
“理解するもの”になっていないか。
“体感できるもの”になっているか。
理念が腹に落ちたとき、
組織の会話と行動は、確実に変わります。
理念や歴史を「言葉」から「体感」に変え、
組織の内側から変化を生んだ企業があります。
そのプロセスと実際の変化を、以下の事例でご紹介しています。
▶︎ 大代ゼンテックス様 ブランディング事例はこちら
【執筆】大野 陣(Jin Ono)/代表取締役
大野のブランディングの核にあるのは、「誰も喜ばない常識にヒビを入れる」という一貫した思想である。
crack株式会社の代表として、国内初となる「企業の誇りをARTで象徴化する」
Symboling(シンボリング) 事業を推進。
世界中の芸術家約200名と連携しながら、企業が積み重ねてきた歴史や想い、誇りを
“語るもの”ではなく、“象徴として立ち上がるもの”として大型ART作品に昇華している。
「常識が壊れた後に出来上がる世界が、真新しい事が重要」だと大野は考える。
見過ごされてきた価値に光を当て、企業と人が「自分たちの誇り」を取り戻すための表現を、今日も生み出し続けている。